テッド-チャン「息吹」

テッド-チャン

「息吹」

 

同作者の作品「あなたの人生の物語」は映画「メッセージ」の原作

それから、17年目の新作であり

短編集となる「息吹」は9篇の小説が収められている

  1. 「商人と錬金術師の門」
  2. 「息吹」
  3. 「予期される未来」
  4. 「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
  5. 「デイシー式全自動ナニー」
  6. 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
  7. 「大いなる沈黙」
  8. 「オムファロス」
  9. 「不安は自由のめまい」

 

ここで全部の感想は書くことはしないが記憶に強く残った作品をピックアップしようと思う

 

正直に書くと、わたしは熱心な読書家ではない

そのため、この作者をよく知らず、帯に書かれた「メッセージ」の原作者である「テッド・チャン」の新作!なんて広告にも惹かれはしなかった

 

新書を購入するときは、平積みされているものを手に取り

後ろの方をパラパラとめくって、適当な文章を眺めて

読みやすいか、そうでないか。好みか、好みではないか直観で決めてしまうのだった。

 

今回もそのパターンで出会った作品だったので、見当違いな解釈を書いていたら申し訳なく思う。

 

 

 

そんな、前置きはさておいて

本書の中では長編となる「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は

学習型AIを巡る作品だ

 

今だと学習型AIと言われても、

Twitterから単語を処理してつなぎ合わせるだけのボットだとか、

スマートフォンに搭載されていて、呼びかければ反応してくれるようなものが登場するわけではない

 

あくまでも、人の形を模したヒューマノイドは人間のパートナーとなりえるのかという題材だった

ゲームだと「detroit become human」をプレイしたことがある人は想像をしやすいだろう

 

本作にこんな一文がある

「誰かを愛するというのは、そのために犠牲を払う事を意味する」

 

これは、主人公が長い年月をかけて成長させたヒューマノイドと思いを寄せる人間を比較して、犠牲を払うべき対象はどちらなのか決めかねているようだった

それほどまでに愛情をもって接してきたヒューマノイドに対して、自らがお腹を痛めた我が子のような感情を抱いていることがわかる

 

人間により近い人間じゃないモノは何なのか
親近感を覚えるのか、冷徹なモノとしてみるのか、

恐怖か愛か

 

ヒューマノイドは人間が性交を行って生み出したのではなく、

プログラミングによって生まれた。

しかし、感情をプログラミングすることができて

自動アップデートもされて学習していく。

 

もちろんそれを制御できるのだが、

人間のようなロボットを、量産して人間のエゴのために使用するのは道徳を考えなければならない可能性。

かつては、それをホンモノの人間で使い捨てロボットのように奴隷として使っていた過去。

 

愛というのは自分の犠牲を払える対象であるか否かであるならば、

わたしは愛を与える対象が考えられない

そして与えられることもないだろう

 

いろいろな感情がグルグルと回っていくなかで読み進めていった作品だった。

 

 

 

あくまで、SFでありフィクションなのだが

とても身近に起こり得る近未来を描いているようで

まるで、先の未来に行ってきたのかと思う作品ばかりだ。

 

未来と過去に行けるゲート、

意識と感情を持つ学習型AIの可能性、

ヴァーチャルリアリティーの空間世界、

パラレルワールドの自分とコンタクトできる機械、

 

 

登場する題材はとても興味深いものばかりで、

哲学的にも科学的にも宇宙的にも

今後の未来を考えさせられる作品だった

 

 

 

これは余談だが

日本国以外の作品はその作者の背景を知らないと読むのが難しいと感じることが多々ある

それは、日本の宗教観と国外の宗教観が全く違うからなのだが

本作もキリスト教の世界観やイスラム教の運命感がよく登場するために、ある程度知っておいたほうが読む進めるのに楽だろう

しかし、

宗教というのは人間か構築してきた文化であり、

それが科学的なAIという題材などに対比して表現されているのはとても魅力的だった