「成人式には行かないで」

この物語はフィクションです

 誤字脱字は各自補完してくれると嬉しいです

 

 

 

20XX年 1月X日 



 人類はウイルスに敗北していた。

 

空気中を多数のウイルスが舞い散り、日に日に感染者数が増えていった現在の社会は、医療の崩壊、人類の減少をもたらしながら、優先的に定期ワクチンを摂取できる裕福層と、そうではない貧困層に別れ、経済崩壊も間もなくというところまで来ている。


 『新型ウイルスに関するニュースです。本日はあらたに14940人の感染確認いたしました。先日の記録を再び更新し政府は全国民に保護服の配布を検討していると……』

 

今日の天気をお知らせするかのように、リビングに置かれたテレビの向こう側でニュースキャスターが今日も飽きもせず感染者数を報告しているのを、新藤マリナはぼんやりと母の隣で見ていた

 

「ちょっと、マリナ? 聞いてるの?」

「え? ごめんなさい……」

 

全世界の人類が著しく減少傾向にあるなかで、政府は国の労働力を確保する目的で成人の年齢を18歳に引き下げた。

 

今では感染防止対策により学校行事は『終業式』も『卒業式』も無くなったが、

18歳になり最後の学校行事『成人式』の日だけは登校しなければならない。

 

義務教育初等である小学校での『入学式』も唯一の登校日だったが、その時に友達なんて出来るはずがない。

 

授業はすべてオンラインになり、学校というコミュニティでの友人関係は作れなくなった。

一方で、多くの顔も知らない同級生はインターネットの中でそれぞれ興味がある分野のコミュニティで交友関係を作るようになっていった

 

そのため、マリナにとって『成人式』は顔も知らない人たちと参加する義務的なセレモニーでしかなかった

 

「お母さんが決めていいよ。そんな振り袖を着たって防疫服とマスクをつけなきゃいけないんだから、意味ないでしょ」

「そんなこと言って……すみません、せっかく時間頂いたのに」

『ハハハ、構いませんよ』

 

テレビ会議で一緒にカタログを見ていた母とセールスマンの取り繕うような愛想笑いにうんざりして、マリナはそう言い捨て自分の部屋に戻った。




・・・・・・

 「はぁ……。」

私がため息を付いてベッドに座ると、スマホの画像ファイルを開いた。



【みてみて!成人式の振袖!可愛いでしょ!】

 

春を連想させる綺羅びやかな振袖をまとった笑顔の少女の画像にふわふわとした文字でメッセージが書かれている。

 

一年前くらいだっけ。乾矢ハツメ先輩が居なくなったのは。

 

ハツメのきれいに着飾った画像をスワイプしていく。

 

その一枚に、振り袖を来た彼女の白く細い首筋が美しくて見惚れてしまった。



 直後、画面から躙り寄るように、あの時の甘美な香りが脳裏に蘇ってくる



・・・・・・



「ねぇ、ほんとに良いんですか?」

ハツメ先輩は好奇心旺盛な女の子だった。私はそれに甘えていたのかもしれない

 

「うん……。たぶん」

ゆっくりと手を握って、ゆっくりと指を絡ませる。

 

「私のこと嫌いになりました?」

初めて握ったハツメの手は少し湿っていて、少し震えていた気がする。

 

ほんとうは女の子が好きだということ。

いつの間にかハツメのことが好きになってしまったこと。

すべてをここで打ち明けた。

 

「ううん。きらいにはならないよ」

ハツメの瞳はまっすぐに私を写していて、頬はモモの花が咲いたように染まっていた。

 

犯罪にはならないとはいえ手をつなぐことはもちろん、キスなどの濃厚接触は規制されている。

 

「……ありがとう。ハツメちゃんは優しいね」

私は濡れた花弁を重ねようとした





・・・・・・

ピピピッ

 

柔らかな春陽をつんざくように無機質な通知音が部屋に響き渡る

 

少しの間、淡い思い出に浸ってしまっていたマリナだったが、

スマホの通知をみた瞬間に目を丸くして、久々に見る名前に驚きを隠せなかった。

 

「……え?」



【『成人式』には行かないで】



そのメッセージの送り主は

去年の『成人式』に突然として消えた

ひとつ上の先輩である乾矢ハツメからの一年ぶりの連絡だったのだ。

 

【ハツメちゃん!? どこにいるんですか? なんで今まで連絡をくれなかったんですか?】

 

【行ってしまったら『おとな』になってしまうから。だから『成人式』には行かないで。大人でもない、子どもでもない私とあなたのままで……。すぐに迎えにいくから。】

 

マリナはすぐに返信を返したが、ハツメからは意味不明な返信しかなかった。



・・・・・・



 マリナにとってハツメは唯一、学校という組織の中で知り合った友人だった。

 

中学生の頃に知り合って学年は違ったが家が近いこともあり直ぐに距離が近くなり、

意識する関係ではあったが恋愛というものを知らなかったマリナは、まだ自分が彼女のことが好きだという感情に気がついていなかった。

 

そこに居て当たり前の存在で、それがいつまでも続くと子供ながらに信じていたのだ。

 

 しかし、それも時が経ち大人になるためにハツメが『成人式』の日。

振袖衣装を見せに来てくれた時に、マリナはどうしても許せなくなってしまった。

 

『おとな』になって、自分とは別の世界に進んでいくハツメのことを

まるで、自分の身体を切り離されるような気持ちになってしまった。

 

そして、もう二度と離したくないから告白をした

そして、『おとな』になったハツメは忽然といなくなってしまった



・・・・・・

 翌日。

 

 私は母と一緒に『成人式』に向かっていた。

私の場合はお母さんの希望だったが、きれいな振袖を着てお化粧やヘアメイクをしてもらえるのは少しだけ楽しくもある。

 

 あれからハツメからの連絡は無い。



【『成人式』には行かないで】



『なんで、そんなメッセージを送ってきたんだろう……』

ぼんやりと昨日の出来事について考えていたら、お母さんに声をかけられた。

 

「マリナ! せっかくの写真なんだから笑って?」

 

いつの間にか学校に到着していて、『第X回 成人式』と書かれた大きな看板の前に私は立たされていたようだ。

 

きれいな姿になるのは楽しいが、写真を取られるのは私には向いていないかもしれない。

数枚の写真をスマホでとったらお母さんは満足したみたいで、いつもの貼り付けたようなニコニコとした笑顔に戻って、私の手を取って校舎へとあるき出そうとしたのだった。

 

「すみません。新藤マリナさんですか?」

フルフェイスのマスクで顔が伺えなかったが、ピッタリとしたバイクスーツに身を包んだ背の高い人物が女性の声で私の名前を聞いてきた。



「ええ、そうですけれど……」

私は、どこかで聞いたことがある声だなと、

そんなことを思った一瞬に、握っていたはずのお母さんの手の感触が急になくなったので

そちらを振り返ると、

 

「どなたで……ッ!?」

お母さんは、

首から上が失くなっていて、その断面からは昔にみたエイリアン映画に登場するようなドロドロとした液体が行き場を失ったようにどくどくと溢れ出ていた。

 

映画の場面がスライドしてきたみたいな、リアリティがない出来事に思考が停止してしまっていると、急に手を引かれて私達は走り出した

 

「遅くなってごめんね、マリナ」

 

私の手を引いて一緒に走っているフルフェイスマスクの女性。

その声は一年前から聴くことが出来なくなっていた、乾矢ハツメの声だったことを私はようやく思い出した。

 

・・・・・・



 二人は近くに停めてあったバイクに飛び乗って、高速道路をものすごいスピードで走っていた。

 

 どこにいくのかもわからないままのマリナは、後ろで大きくなった気がするハツメの背中にしがみついて、絡み合ったイヤホンコードのようになった感情を必死に解こうと躍起になっていたのだが、やがて諦めた。

 

それよりも、一番好きだったハツメが戻ってきた事実。

その事実は、今、マリナの腕の中でしっかりと呼吸をしていて生きている。

妄想よりも濃厚な甘いハツメの香りがマリナの感情を今は優しく撫でてくれているのだ。



・・・・・・




「ごめんね、遅くなって」

 

ハツメはマリナに自販機で買ってきた飲み物を渡すと口を開いた。

 

辺りは暗くなり、日が落ちた頃。

二人は、街を一望出来るような小さな駐車スペースで停まった。

 

「・・・・・・。」

マリナは黙って温かいミルクココアを受け取り、口をつけた。



「ごめんね。もっと早く行きたかったんだけれど……」

ハツメは何度もマリナに謝った。

 

「マリナには『おとな』になってほしくなかったの。

 アレはただの『成人式』なんかじゃない。

 利己主義な金持ちが考え出した、『優秀なDNAを選別するための儀式』なの。

 マリナは、『成人式』に参加したあと、これまでのデータから優秀な遺伝子かそうでないかを選別された結果、優秀な遺伝子であれば、過去の私と同じように施設に収監されて子供を生むことになるわ。よく出来たシステムでしょ?」

 

「お母さんは……」

 

「マリナの手を握っていたヒューマノイドは『お母さん』ではないわ。

 私達には『お母さん』なんて存在は居なかったのよ。

 生まれたときに記憶操作されていて、捏造された存在でありアレはただの世話役の人形でしかなかった」

 

事実に、父親は私が『生まれた時』から遠くで仕事をしているという認識で詮索もしなかった。

母親との思い出も空っぽで、『思い出の場所』も、『思い出の料理』も、『思い出の曲』も不思議なほどに何もない。

あるのは、家の中の風景と、あの貼り付いたような笑顔だけ。

それらが気が付かないように意識を操作をされていたとしても今は納得できてしまう。



おおきく一度、深呼吸したマリナは単車に寄りかかっていたハツメに詰め寄り、

 

バチンッ!

 

平手打ちをした拍子に、ハツメが持っていた飲みかけのブラックコーヒーが明後日の方向に転がっていった。




「じゃあ今までどこにいたんですか!? わたし、ずっと会いたかったのに!」

マリナは眼に涙を浮かべながら訴えた。

 

「ごめんね。でも、迎えにいくって言ったでしょ?」

紅くなった頬をそのままに、ハツメの瞳はまっすぐにマリナを写している。

 

「私のこと嫌いになったのかと思ってた」

 

「ううん。きらいにはならないよ。

 

          ずっと、好きだから」

 

ハツメは震えているマリナの手を握って言葉を続ける。

 

「『おとな』でもない、『こども』でもない。あたしとマリナのままで、この世界から逃げましょう」

 

ハツメがマリナの腰に手を当てて、近くに引き寄せる。

 

マリナは、

たった一年だけ離れていたのに、ハツメがとても大人びてしまったと思った。

 

そして、二つの濡れた花弁が静かに沈む。

これまでの氷のように固まっていた気持ちが熱く溶けて混ざり、絡み合った。

 

 


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4200ward

 

 

 

 

このフィクションはTwitterを非常に参考にしました

参考作品

 

 

私が謝っても意味ないけれど、すいません無理でした

 
 
以上、24時間企画で書いてみました
でびるさまのお口に合えば幸いです

 

余談ですけど、今は無職になって暇で

このようなシナリオ、またはゲームのアイテムの説明欄、レビュー等の文章作成は出来ます

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今週のお題「大人になったなと感じるとき」