三浦しをん「舟を編む」

三浦しをん

舟を編む

 

 

「――役にも立たないプライドばかり肥大してっから、俺は「なりふりかまわず」ってのができないのかもしれないけどな。」

 

 

西岡は馬締との対比で自分のことをそう評価している

仕事はできるが、何に対してもさして入れ込めず、

常に他人と能力を比べては焦り、卑屈な自分を常に隠して生きてきた。

 

そんな彼が、辞書作りに情熱を捧げている松本先生や荒木さんや

仕事ができる佐々木さん

そして、新人なのに逸材であった馬締の登場により

 

自分のプライドというものがズタズタになっている心情というのは

シンクロするように心が痛んだ

 

そんな彼が、辞書編集部からの異動というタイムリミットを得て

感情が変化して、自分自身ができることを全力に尽くそうとなった

 

西岡の内で自分の大切なものが定まって行く様子が読み取れる

 

わたしはこの作品を読んで

西岡の感情の変化、曇っていた眼が一つの光を見つけたかのような

暗い底から明るい場所に出られるようになって、幸せを手に入れることができたのだと思ったし

 

その部分に対して羨望し、嫉妬した。

 

 

わたしも、過去の西岡と同じだ

プライドだけが積み上がっていき、

経験による手癖だけで流れるように仕事をこなして

自分よりも金を稼いでいる向こう側の人間に嫉妬する

なりふりかまわずなんて走ることも出来ない

なんで、お前だけ、救われてるんだ

お前も俺と同じじゃないのか

 

そう思った

 

 

馬締みたいな存在の人間に出会えたから西岡は変われたのだろうか

 

 わたしも変われるのだろうか

 

 

 

 

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)